被災地支援センター
陸前高田市「支援を必要とする人の被災時における支援に関する実態調査」報告(概要)
2014年3月18日
今般の東日本大震災において、陸前高田市では1,500人余の尊い命が奪われた。また、同様に多数の市職員も犠牲になった。市庁舎の被災により、所管していた書類も流失し、行政機能がマヒ状態に至った。そのような中にあって、障害者の状況について、2011年7月に保健師の全戸訪問による確認や、2012年1月に障害者手帳所持者の安否確認などが行われていた。しかし、市は、2012年1月の時点でなお障害者の実態の詳細は把握するに至っていなかった。今後の災害時要援護者への登録希望などを含め、生活実態の状況把握の必要性が大きくなっていた。そのような中、陸前高田市とJDFとの懇談を重ね、訪問調査を実施する運びとなった。調査は、陸前高田市と日本障害フォーラム(JDF)と地元の関係機関との協力体制で行った。(調査は、悉皆調査方式で行った)。
1.調査概要
(1)目的
本調査は、被災から1年余が経過した時点での障害児・者の生活実態並びに緊急のニーズ把握を行い、これらを基に今後の復興を含めた障害者施策の基礎資料を得ることである。
(2)調査主体 日本障害フォーラム(JDF)
(3)調査対象・方法
陸前高田市の障害者手帳所持者と自立支援医療利用者 1,357人 (※訪問調査による面談者数 1,021人)の訪問による聞き取り調査を行った。
(4)調査期間
2012年7月6日~11月12日(予備調査を含む)
(5)集計数
訪問調査対象者は1,357人であったが、実際に訪問調査を行ったのは、高齢者施設入所者と自立支援医療のみの受給者を除く1,021人であった。うち、5名については所在は確認できたものの、入院や拒否のため聴き取りはできず、集計については1,016人で行なった。
2.調査対象の実態
性別では、男性が533人(52.5%)、女性が483人(47.5%)であった。主な障害種別は、身体障害者707人(69.6%)、知的障害者183人(18.0%)、精神障害者102人(10.0%)、重複障害のある人は25人(2.4%)。年齢別では、65歳以上が550人(54.1%)と半数を占め、19~64歳が425人(41.8%)、1~18歳は41人(4.1%)。
1,016名のうち、65歳以上の高齢障害者は550人。高齢化率でいうと実に56%になる。陸前高田市全体の高齢化率34.9%に比べ非常に高い。特に、身体障害者の707人のうち65歳以上が517人(73.1%)を占めている。
性別 | 人数 | % |
---|---|---|
男 | 533 | 52.5 |
女 | 483 | 47.5 |
年齢 | 人数 | % |
---|---|---|
1~18歳 | 41 | 4.1 |
19~64歳 | 425 | 41.8 |
65歳以上 | 550 | 54.1 |
合計 | 1016 | 100.0 |
年齢 性別 | 1~18 | 19~64 | 65以上 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
人数 | 男女 (比) | 年齢 (比) |
人数 | 男女 (比) | 年齢 (比) | 人数 | 男女 (比) | 年齢 (比) | 合計 | |
男 | 33 | 80.5 | 6.2 | 248 | 58.4 | 46.5 | 252 | 45.8 | 47.3 | 533 |
女 | 8 | 19.5 | 1.7 | 177 | 41.6 | 36.6 | 298 | 54.2 | 61.7 | 483 |
合計 | 41 | 100.0 | 4.1 | 425 | 100.0 | 41.8 | 550 | 100.0 | 54.1 | 1016 |
3.避難情報の入手経路と避難誘導の支援(複数回答)
避難情報の入手経路は、防災行政無線からが182人(20.6%)、福祉サービス事業者からが134人(15.2%)、近隣住民から126人(14.3%)、家族・親戚から 123人(13.9%)となっている。なお、ラジオ32人(3.6%)、消防・警察26人(2.9%)、テレビ15人(1.7%)、行政職員4人(0.5%)。避難誘導の支援は、家族・親戚からが163人(21.6%)、福祉サービス事業者からが133人(17.6%)、近隣住民から76人(10.1%)。
4.避難経験の有無
避難した人は、527人(51.9%)、しなかった人は409人(40.2%)。避難しなかった人の中に、避難したくても出来なかった人が12人。
詳細は次の通り。
①居住地:矢作町2名
種別:身体障害(内部・肢体)
理由:歩行困難
山間部に位置し、津波被害の無い所である。2008年に発生した「岩手宮城内陸地震」において県内で山体崩壊や土砂崩れが多発し、死亡行方不明者23名、重軽傷者426名となった。この地震を経験していることから、その地震より激しい揺れに見舞われた山間部でも命の危険を感じたと推測される。
現に、2名のうちの1名は前後を山に挟まれた谷地にある。
②居住地:横田町2名
種別:身体障害(内部・視覚)
理由:避難情報入手できていない(2名とも)
地域的には海からだいぶ離れているので、津波の被害の想定地域ではない。
このうち1名は川沿いに居住、約500メートル下流まで津波が遡上した。ただし、この時点では想定外だったと思われる。
両者とも避難情報(災害情報)が入手できていないのが気がかり。
③竹駒町:1名
種別:身体障害(肢体)要介護5
理由:移動困難
本人は移動できる状態ではなく、津波の被害を受ける地域でもないのでそのまま自宅にいる事を選んだ。
④気仙町:1名
種別:精神障害
理由:移動困難(老々障介護)
拒食症により体力が無く避難できなかった。同居の母(当時74)は祖母(当時85)を連れて高台へ避難した。自宅は海から100M以内にあり、床下浸水をした。
⑤高田町:2名
種別:身体障害(肢体・体幹)
理由:移動困難(介護者不在及び老々障介護世帯)
自力歩行が出来ないため(1)、介助者が複数の介助が出来ないため(1)。高台にあるが、どちらも数百メートルのところまで津波が来ている。介助者が居ない状況や、老々障介護等の高齢者世帯の複数介護の過程では物理的に避難は難しかったようである。
⑥米崎町:2名
種別:身体障害(聴覚・肢体)
理由:情報不足・移動困難(介護者不在)
どちらも浸水域ではないが、数百メートルのところまで津波が来ている。聴覚の方は避難情報が入手できていなかった。肢体不自由の方は、81歳の独居であったが、震災翌日に近所の方が訪問するまで誰も来てくれなかったとの事であった。
⑦広田町:2名
種別:身体障害(視覚・聴覚)
理由:移動困難(老々介護及び介護者不在)
どちらも半島にお住いの方で、海の近くに住んでいる。聴覚の方は、浸水域の境界にお住いで、老々介護で寝たきりの夫がいたので避難できなかった。視覚の方は少し高台にあったが、同居の家族が入院中であったため本人ひとり家に取り残されてしまった。
5.現時点での生活面・医療面の支援の必要性(調査員による判断)
何らかの支援が必要と判断された人は、162人。緊急支援が必要と判断された人に対しては、市と相談しながら対処。また支援が必要と思われる人が147人。
6.避難時並びに避難先での支援や配慮の有無
避難時の支援では、車両の支援(一般車両)が350人(32.9%)、介助等人的支援が243人(22.9%)、福祉車両の支援が75人(7.1%)。また、避難先の配慮では、医療的な配慮が501人(30.0%)、生活面の配慮448人(26.8%)、移動面の配慮279人(16.7%)。
7.要援護者名簿への登録、緊急時の情報公開について
要援護者名簿への登録について、承諾した人は701人(69.0%)、不承諾・不明が173人(17.0%)、無回答142人(14.0%)。緊急時の情報公開は、承諾した人728人(71.7%)、不承諾・不明142人(14.0%)、無回答146人(14.4%)。(関連事項は後部で再掲)
8.調査から見えてきた課題
(1)高齢化の問題
陸前高田市における障害者問題は、高齢者の課題と重なった観点からの検討が必要。陸前高田市全体の高齢化率(34.9%、2012年度現在)は、岩手県平均の27.2%よりも7.7%も高い。この点からも高齢化対策は、陸前高田市の今後の復興行政のなかで大きな位置を占めるといえるが、その対策にきちんと障害のある人の視点を組み入れることが重要。
(2)避難情報入手・避難経路
災害時における福祉事業者への期待は大きく、支援機能の在り方の再検討が求められる。障害特性に応じた配慮がなされなければならない。実効性を高めていくためには、障害当事者の参画が不可欠となる。
(3)際立つ移動支援へのニーズ
一番要望が高かったのは通院や買い物、通学にかかる移動支援である。ヘルパー介護タクシーや、“みちのく衛生の会”“TEAM OK(JDFいわて支援センター)”等のボランティア組織を利用している人は限られる。障害ゆえの困難さや配慮が必要である人が多く、移動支援サービスへのニーズは、行政が責任を持って行うことが求められる。
(4)要援護者名簿への登録・情報公開
要援護者名簿の周知度についての設問はなかったものの、訪問時に一定の回答が得られた。名簿への登録や公開を承諾した人たちが7割。不承諾や不明の中には、「家族と相談しないと」「今は必要がないが今後は必要になるかも」と消極的不承諾である。今後も、当事者や家族の変化などを定期的に把握するシステムが求められる。同時に、住民の側からの情報発信のしくみづくりが重要。
※調査報告 本編はこちら