被災地支援センター
「支援を必要とする人の被災時における支援に関する実態調査」報告(2014年3月18日)
(1)調査目的
被災から1年余が経過した時点での障害者等の実態を把握し、訪問調査の中で把握したニーズを行政や関係機関と共有しながら対応し解決していくため、第一に、緊急のニーズ把握を行う、第二に今後の復興を含めた障害者行政の基礎資料とする、第三に今後の障害者の防災計画作成の基礎資料とすることである。
(2)調査主体 日本障害フォーラム(JDF)
※実施にあたっては、陸前高田市、いわて障がい福祉復興支援センター(気仙圏域センター)等と連携・協力を行った。(3)調査期間 2012年7月6日~11月12日(予備調査を含む)
(4)調査対象
陸前高田市の障害者手帳所持者と自立支援医療利用者 1,357人 (※訪問調査による面談者数 1,021人)(5)調査方法 個別訪問による対面調査
(6)主な調査項目
調査の視点は、大きく分けて、①震災以降の避難の状況、②現在の生活状況とニーズ、③災害発生時の今後の対応、の3点である。
(7)調査の実施について
全国から派遣されたJDF関係者(調査員)、JDFいわて支援センタースタッフ、いわて障がい福祉復興支援センター(気仙圏域センター)からの協力者で調査チームを編成し、原則として1チーム2名で訪問調査を行った。1クール1週間の交代制で、調査従事者は、延べ531人(うち、復興支援センター職員105人、JDF調査員426人)であった。
(8)調査結果の概要
訪問調査対象者は1357人であったが、実際に訪問調査を行ったのは、高齢者施設入所者と自立支援医療のみの受給者を除く1021人であった。うち、5名については所在は確認できたものの、入院や拒否のため聴き取りはできず、集計については1016人で行なった。
Ⅰ.基本属性
1.性別・年齢
■性別は男性が52.5%、女性47.5%。年齢構成は、65歳以上の高齢者が54.1%となっており、性別で見ると、女性の61.7%は65歳以上である。
性別 | 人数 | % |
---|---|---|
男 | 533 | 52.5 |
女 | 483 | 47.5 |
年齢 | 人数 | % |
---|---|---|
1~18歳 | 41 | 4.1 |
19~64歳 | 425 | 41.8 |
65歳以上 | 550 | 54.1 |
合計 | 1016 | 100.0 |
年齢 性別 | 1~18 | 19~64 | 65以上 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
人数 | 男女(比) | 年齢(比) | 人数 | 男女(比) | 年齢(比) | 人数 | 男女(比) | 年齢(比) | 合計 | |
男 | 33 | 80.5 | 6.2 | 248 | 58.4 | 46.5 | 252 | 45.8 | 47.3 | 533 |
女 | 8 | 19.5 | 1.7 | 177 | 41.6 | 36.6 | 298 | 54.2 | 61.7 | 483 |
合計 | 41 | 100.0 | 4.1 | 425 | 100.0 | 41.8 | 550 | 100.0 | 54.1 | 1016 |
2.障害種別
■障害種別は、身体障害が69.5%を占め、続いて知的障害18.0%、精神障害10.0%となる。年齢別の大きな特徴は、身体障害の方の73.1%が65歳以上の高齢者という点である。
年齢 障害種別 | 1~18 | 19~64 | 65以上 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
人数 | 種別(比) | 年齢(比) | 人数 | 種別(比) | 年齢(比) | 人数 | 種別(比) | 年齢(比) | 合計 | |
身体障害 | 11 | 26.8 | 1.6 | 179 | 42.1 | 25.3 | 517 | 94.0 | 73.1 | 707 |
知的障害 | 27 | 65.9 | 14.8 | 140 | 32.9 | 76.5 | 16 | 2.9 | 8.7 | 183 |
精神障害 | 2 | 4.9 | 2.0 | 86 | 20.2 | 84.3 | 14 | 2.5 | 13.7 | 102 |
身体・知的 | 1 | 2.4 | 5.5 | 14 | 3.3 | 77.8 | 3 | 0.5 | 16.7 | 18 |
知的・精神 | 0 | 0.0 | 0.0 | 6 | 1.4 | 100.0 | 0 | 0.0 | 0.0 | 6 |
合計 | 41 | 100.0 | 4.1 | 425 | 100.0 | 41.8 | 550 | 100.0 | 54.1 | 1016 |
3.家族構成
■家族構成で一番多いのは、2人世帯の24.6%、続いて3人世帯23.3%である。単身世帯は7.5%、5人以上の多人数世帯は合計すると21.2%である。
単身 | 2人 | 3人 | 4人 | 5人 | 6人 | 7人以上 | 不明 (入院・入所含む) | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
人数 | 76 | 250 | 237 | 142 | 102 | 69 | 45 | 95 | 1016 |
% | 7.5 | 24.6 | 23.3 | 14.0 | 10.0 | 6.8 | 4.4 | 9.4 | 100.0 |
■単身世帯は全体で76人であるが、そのうち65歳以上が35人(46.1%)を占める(内80歳代が18人)。2人世帯でも高齢世帯の割合が高く67.2%が65歳以上となっており、高齢障害者の36.9%は単身および2人世帯で生活している。18歳未満では、5人以上の多人数世帯の比率が他世代に較べ高いのが特徴である。
年齢 構成人数 | 1~18 | 19~64 | 65以上 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
人数 | 人数比 | 年齢比 | 人数 | 人数比 | 年齢比 | 人数 | 人数比 | 年齢比 | 合計 | |
単身 | 0 | 0.0 | 0.0 | 41 | 9.6 | 53.9 | 35 | 6.4 | 46.1 | 76 |
2人 | 1 | 2.4 | 0.4 | 81 | 19.1 | 32.4 | 168 | 30.5 | 67.2 | 250 |
3人 | 5 | 12.2 | 2.1 | 104 | 24.5 | 43.9 | 128 | 23.3 | 54.0 | 237 |
4人 | 13 | 31.7 | 9.2 | 59 | 13.9 | 41.5 | 70 | 12.7 | 49.3 | 142 |
5人 | 10 | 24.4 | 9.8 | 38 | 8.9 | 37.3 | 54 | 9.8 | 52.9 | 102 |
6人 | 7 | 17.1 | 10.2 | 27 | 6.4 | 39.1 | 35 | 6.4 | 50.7 | 69 |
7人 | 5 | 12.2 | 11.4 | 16 | 3.8 | 36.4 | 23 | 4.2 | 52.3 | 44 |
不明 | 0 | 0.0 | 0.0 | 59 | 13.9 | 61.5 | 37 | 6.7 | 38.5 | 96 |
合計 | 41 | 100.0 | 4.1 | 425 | 100.0 | 41.8 | 550 | 100.0 | 54.1 | 1016 |
4.居住形態
■「自宅」で生活している人が62.5%を占め、次いで「仮設住宅」で生活している人は22.5%である。「施設入所」は、入所施設やグループホーム・ケアホーム、高齢者の介護施設で居住する人を含め、4.4%となっている。その他、「転居先・避難先」4.0%、「民間賃貸住宅」は2.4%となっている。
居住形態 | 人数 | % |
---|---|---|
自宅 | 635 | 62.5 |
仮設住宅 | 229 | 22.5 |
公営住宅 | 38 | 3.7 |
民間賃貸住宅 | 24 | 2.4 |
転居先・避難先 | 41 | 4.0 |
施設入所 | 45 | 4.4 |
不明 | 4 | 0.4 |
合計 | 1016 | 100.0 |
公営住宅:県営住宅・市営住宅・雇用促進住宅
Ⅱ.避難状況
1.避難情報の入手経路(複数回答n=884)
■避難情報の入手経路は、「防災行政無線」182人(20.6%)、「福祉サービス事業者」134人(15.2%)、「近隣住民」126人(14.3%)、「家族・親戚」123人(13.9%)の順となっている。「テレビ」「ラジオ」のマスメディア、「行政職員」「消防・警察」からの回答は少なく、身近な者から情報を得ていたことがわかる。「その他」の回答で具体的な記載があるのは87人でその内訳は、自己判断、携帯メール、勤務先、通院中などが多かった。回答が無かった248人は、情報などが入手・利用できなかった可能性も考えられる。
2.避難誘導の支援(複数回答n=755)
■避難誘導支援を誰から受けたのかは、「家族・親戚」163人(21.6%)、「福祉サービス事業者」133人(17.6%)、「近隣住民」76人(10.1%)の順となっている。「その他」と回答した62人(8.2%)の内訳をみると、自分で、病院や勤務先、学校内で支援を受けている割合が高い。福祉サービス事業者が多いのは、震災発災時間が2時46分で、事業所開所中であったためと思われる。
3.震災から現在までの避難状況
■避難経験があった人は527人(51.9%)、なかった人は409人(40.3%)であった。避難経験のなかった人の中で、避難の必要がなかった人が368人、無回答29人、避難したくても出来なかったと回答した人が12人いた。
■避難経験のあった527人の中で、避難誘導の「支援なし」と回答した人は96人(18.2%)と、2割近くに上る。その内訳は下記の通りである。
性別 | 年齢 | 障害種別 | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
男 | 女 | 1~18 | 19-64 | 65以上 | 身体 | 知的 | 精神 | 身・知 | 知・精 | |
人数 | 61 | 35 | 4 | 45 | 47 | 68 | 13 | 13 | 2 | 0 |
% | 63.5 | 36.5 | 4.2 | 46.9 | 48.9 | 70.8 | 13.5 | 13.5 | 2.2 | 0 |
■「避難したくてもできなかった」と回答した12人のうち、6人がその理由として「自力での歩行が困難だった」「避難場所が遠くいけなかった」等、本人自身の障害や体力的な問題をあげている。残りの方は、「同居者が入院中であり一人取り残された」「寝たりきりの配偶者がいた、二人を抱えて逃げられなかった」「携帯で情報を得ていたが入らなくなった」「誰も来てくれなかった」などと回答。回りの支援や情報から孤立した状況に置かれてしまったことが推察される【詳細については、最後に別記としてまとめた】。
■障害種別では、身体障害のある人が11人、精神障害のある人が1人。年齢は、65歳以上が8人、性別では、10人が女性であった。
性別 | 年齢別 | 障害別 | 家族構成人数別 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
19~64 | 65歳以上 | 身体障害 | 精神障害 | 単身 | 2人 | 3人 | 4人 | 5人 | |
男 | 1 | 1 | 11 | 0 | 0 | 1 | 2 | 0 | 0 |
女 | 3 | 7 | 0 | 1 | 2 | 1 | 2 | 2 | 2 |
合計 | 4 | 8 | 11 | 1 | 2 | 2 | 4 | 2 | 2 |
■1回目の避難先について(n=531)
1回目の避難先は、「避難所」177人(33.3%)、「家族・親戚宅」100人(18.8%)、「そ他」254人(47.8%)となっている。「その他」の避難先のうち「公共施設」811人の内訳は、寺・神社17人、公民館16人、学校13人、コミュニティーセンター(地区公民館)6人等となっている。また「その他」47人のうち20人は車中で過ごしたと回答している。
避難先 障害種別 | 避難所 | 家族・親戚宅 | その他 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
人数 | 種別 (比) | 場所 (比) | 人数 | 種別 (比) |
場所 (比) | 人数 | 種別 (比) |
場所 (比) | 合計 (B) |
|
身体障害 | 126 | 71.2 | 34.6 | 77 | 77.0 | 21.2 | 161 | 63.4 | 44.2 | 364 |
知的障害 | 32 | 18.1 | 31.5 | 16 | 16.0 | 14.8 | 58 | 22.8 | 53.7 | 106 |
精神障害 | 17 | 9.6 | 32.1 | 7 | 7.0 | 13.2 | 29 | 11.4 | 54.7 | 53 |
身体・知的 | 2 | 1.1 | 28.6 | 0 | 0.0 | 0 | 5 | 2.0 | 71.4 | 7 |
知的・精神 | 0 | 0.0 | 0 | 0 | 0.0 | 0 | 1 | 0.4 | 100 | 1 |
合計(A) | 177 | 100.0 | 33.3 | 100 | 100.0 | 18.8 | 254 | 100.0 | 47.8 | 531 |
■2回目避難先(n=302人)
2回目の避難をしている人は531人から302人と、1回目に比べ4割余り減少している。「避難所」が177人から74人に、「その他」が254人から110人へと減っているのが主因である。「家族・親戚宅」への避難は、わずかであるが増えている。「その他」の避難先のうち「仮設住宅」と回答した方が15人いた。
障害種別 | 避難所 | 家族・親戚宅 | その他 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
人数 | 種別 (比) | 場所 (比) | 人数 | 種別 (比) | 場所 (比) | 人数 | 種別 (比) | 場所 (比) | 合計 (B) |
|
身体障害 | 48 | 64.8 | 22.2 | 87 | 73.7 | 42.8 | 71 | 64.5 | 35 | 203 |
知的障害 | 13 | 17.7 | 22.2 | 17 | 14.4 | 31.5 | 25 | 22.7 | 46.3 | 54 |
精神障害 | 11 | 14.8 | 32.35 | 11 | 9.3 | 32.35 | 12 | 10.9 | 35.3 | 34 |
身体・知的 | 2 | 2.7 | 33.3 | 2 | 1.7 | 33.3 | 2 | 1.8 | 33.3 | 6 |
知的・精神 | 0 | 0.0 | 0 | 1 | 0.8 | 100 | 0 | 0.0 | 0 | 1 |
合計(A) | 74 | 100.0 | 24.5 | 118 | 100.0 | 39.1 | 110 | 100.0 | 36.4 | 302 |
■3回目避難先(n=152人)
3回目の避難をした人は152人と更に減っている。「避難所」や「家族・親戚宅」を離れていかれた方が多い一方、「その他」として「仮設住宅」と回答した人が増えている。
障害種別 | 避難所 | 家族・親戚宅 | その他 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
人数 | 種別 (比) | 場所 (比) | 人数 | 種別 (比) | 場所 (比) | 人数 | 種別 (比) | 場所 (比) | 合計 (B) |
|
身体障害 | 15 | 75.0 | 13.6 | 30 | 76.9 | 27.3 | 65 | 69.9 | 59.1 | 110 |
知的障害 | 2 | 10.0 | 9.5 | 6 | 15.4 | 28.6 | 13 | 14.0 | 61.9 | 21 |
精神障害 | 2 | 10.0 | 11.8 | 3 | 7.7 | 17.6 | 12 | 12.9 | 70.6 | 17 |
身体・知的 | 1 | 5.0 | 7.7 | 0 | 0.0 | 0 | 2 | 2.1 | 92.3 | 3 |
知的・精神 | 0 | 0.0 | 0 | 0 | 0.0 | 0 | 1 | 1.1 | 100 | 1 |
合計(A) | 20 | 100.0 | 12 | 39 | 100.0 | 23.5 | 93 | 100.0 | 64.5 | 152 |
■避難先で困ったこと、不便だったこと、辛かったこと(自由記載N=498)
電気や水道が使えなかったことや、衣食などの物資不足を指摘する回答が最も多かった。避難所生活での共通する困難さが浮かび上がっているが、障害ゆえの人間関係の難しさを訴える声も少なくなかった。
Ⅲ.現在の生活状況
1.日常生活について(n=921)
【震災後】
震災後の日常生活の変化については、体調の変化をあげる人が最も多く160人(17.4%)、次いで、就労問題・家計156人(16.9%)、家族関係・人間関係の変化139人(15.1%)、ライフライン111人(12.1%)、福祉サービス利用105人(11.4%)となっている。以下、回答をもとにその特徴と傾向を見ていく。
◆体調の変化
- 「風邪をひくと治りにくい」「すぐに熱を出して体調を崩すようになった」「今まで殆ど見られなかったてんかんの発作がみられた」「震災後痴呆がひどくなった」等、体調の低下とともに、回復の遅れや病状の進行がみられる。
- 「風呂に入れなく皮膚病が悪化した」「(避難所で我慢したため)失禁が多くなりオムツを使うようになった」「4ヶ月寝たままにさせていたので、歩けなくなってしまった」等、避難所等での生活が長引いたことも、体力やQOLの低下をもたらしている。
- 中には、「水運びで膝を痛めた」「震災直後近隣住民の世話をして膝が悪化している」「お風呂の薪運びや水汲み作業が負担で腰を痛めた」等、震災後の過酷な家事環境が原因で、体調を崩した人もみられる。
- 「涙もろくなった」「思いつめてしまう」「生きているのがつらい」「亡くなった人を思い出すと涙が出る」等、多くの人が欝的な症状に苦しんでいる。
- また、「外に出なくなった」「行動が狭くなって、在宅が多くなった」「何もしたくない」等、行動意欲や活動量の減退もみられる。
- 知的障害のある人では、震災と避難生活を境に、「食事や服薬の拒否」「トイレの失敗が増えた」「自傷、耳ふさぎが多くなった」「大声を出したり人を叩くことが増えた」「集団では眠れなくなった」等の変化も生じている。
◆就労問題・家計
- 会社が倒産する等して、多くの人が震災で仕事を失くし無職となっている。復職や再就労を希望しているが非常に難しく、自営業では資金の調達が困難で再建をあきらめた人も多い。
- 漁業や農業でも「養殖が全滅、仕事がなくなった」「道具が流され漁業ができなくなった」「稲の耕作面積が1/2以下になった」「「福島原発の風評被害や放射線の検出などで出荷ができなくなった」等、多くの被害や影響が生じている。
- 会社が再開したり、再開の見通しがついた人、転職や再就職できた人もいる。しかし、規模の縮小や売り上げの減少に伴う給料カットなど、収入は震災前に較べて大きく減少している。
- また、有期限の臨時採用であったり、「4時間のパートを二つ掛け持ちして働いている」「仕事先が遠くなり通勤時間が長くなった」等、厳しく不安定な就労形態に移行した人も多い。
- 障害者雇用に関してはやはり厳しく、「仕事を探すも、身体障害者を理由にどこに行っても不採用になる」「会社から解雇される。再度申し出るが再雇用されなかった」や、「今年の4月にすすめられて、仕事をしたが、コミュニケーションが難しくて9月初めに辞めた」「失業保険が終わってからハローワークには行っていない。工場長の人使いが荒かった」等の回答があった。一方で「ジョブコーチを利用して、2012年3月に勤務、再就職できた」という人もいた。
◆家族関係・人間関係の変化(死別も含む)
- 回答のあった人のうち、64人が近親者との死別や自宅流出を経験している。
- 震災を境に、家族がバラバラになった人や、反対に子どもや兄弟と同居するようになった人もいる。
- 仮設住宅や市外への移住で近所づきあいが途絶え、孤独で孤立した生活を送っている人が多いが、一方で、「地元の人の思いやりが強くなった」「他の人と助け合おうという気持ちが強くなった」と答えた人も少なくない。
◆ライフライン
- 「電気・水が復旧したのは2カ月後」「食べ物がなかった」「暖房が使えず寒かった」「風呂に入れなかった」「地下水や薪などを使い凌いだ」等、震災当時の逼迫した状況を語る人が多かった。
- 最近の状況では、「商店がなくなり買い物が不便になった」「衣料品が手に入らない」「買いだめしないと駄目になった」等、店舗の流出による生活の不便を上げている。
◆福祉サービス利用
- 震災により事業所が被災ししばらく休業となったが、1~2週間から数ヶ月で多くの事業所が再開している。「作業所が1ヵ月間ストップしたのがつらかった」というように、障害のある人やその家族にとって福祉サービス事業所の存在は非常に大きなものがある。
- 震災に遭ったGHの入居者を施設が受け入れたため、一時3人部屋での生活となった人がいる。また、実家が流され、震災後の家庭帰省ができなくなったり、仮設住宅への帰省に変わった人もいる。事業所が被災し、別の事業所に変わった人もいたが、時間の経過とともに新しい生活にも少しずつ慣れてきている。
- ホームヘルプサービスやデイサービス、ショートスティを利用している人も多い。震災後「ヘルパーの数が減少したことで、頼みにくくなった」と答えた人が目立つ。
◆アクセスの不便さ
- 公共交通機関(鉄道やバス)の壊滅と、道路事情の変化により、移動手段を持たない障害者や高齢者の通院や買い物等の日常生活が大変不便になっている。
- 現在は、家族の運転やタクシー利用、チームOK(JDFいわて支援センター)やみちのく衛生の会の移動サービスを利用して対応している。
◆医療
- 「透析を受けるためヘリコプターで大船渡に行った」「酸素吸入が必要だった」「薬が手に入らず困った」等、震災直後に大混乱したことが多くあげられている。
- その後については、「行きつけの薬局が流され、薬の供給が滞りがち」「透析治療が短縮され、週2日、3時間の最低限の治療になった」「必要な医療器具の入手が困難になった」「通院の送迎がなくなった」等、医療の内容や質の低下を懸念する声が出されている。
2.今、不安なこと、心配なこと、困っていること
生活面、経済面、健康面、移動面、人とのつながり、その他の6項目で聴き取っている。回答については、健康面805人(20.4%)、移動面755人(19.16%)、経済面・人とのつながり652人(16.5%)、生活面638人(16.1%)となっている。
★生活面(情報保障も含め:n=253)
他の設問内容にもまたがる多種多様な不安や困りごとが回答されており、 被災障害者や家族が置かれている生活の現状や課題の全体像を見ることができる。
◆特に記述が多かったのが、心身の健康不安と家族介護・負担の増大に関する声である
- 65歳以上の高齢者が多い(54.1%)ことに加え、震災後の生活環境の激変により、疾病や身体機能の衰えによる日常生活上の不便や介護度が増加していることが伺える。
- 日常生活で必要となっている介護は、起き上がりや歩行・移動等の基本的動作に加え、入浴やトイレ、洗髪洗顔や食事等である。
- こうした介護度の増加が、家族の負担を高め、介助者自身の体調悪化につながっているケースもある。
- 小人数の世帯構成が多く(2人世帯24.6%、3人世帯23.3%)、家族不在時の介護支援や緊急時の対応を心配する声も少なくない。
- 一方、「夜、大声を出して眠れない日がある」「生きる勇気と希望が湧いてこない」「みんなと話をするのが辛い、頑張ってねと言われると何をこれ以上頑張れというのかと思う」等、被災時の恐怖や喪失感から立ち直れず苦しい心境を語る人も多い。
- また、「仮設住宅での生活(一人でいる時間)が苦痛である。以前は花を育てたりしていたが、今は無いので寂しい」等、仮設住宅などの新しい生活環境になじめずにいる人も多い。
◆日常生活に関しては、市街地が流失し買い物をする店舗が近隣になくなってしまったことに加え、公共交通機関の復旧が進まないことによる不便を訴える声が最も多かった。
- 店舗の中でも、衣料品店がなくなったことへの不便を訴える声が最も多く、買い物に遠方まで出かけなければならないため、多くの人が家族の協力で車での買い物に出かけている。
- しかし、家族の都合もあり頼みづらさを感じていたり、障害があって車を運転できない人の中には、「一人では何も出来なくなってしまった」の声にあるように、移動の自由の制約が、生活の意欲を奪っている現状もある。
◆震災の再発への不安をかかえている人が多いなかで、特に情報の提供や発信に関する意見が多く出ている。
- 特に、「聴こえない」「直っていない(修理)」「反響して聞きづらい」「同時に二つ聞える」等、防災無線への不満が多い。
- また、聴覚障害の人からは、「電話に出ても聴こえないので、電話に出られない」など、万が一の場合の不安を訴える声が出ている。
- 緊急時以外にも、地元の日常的な情報がなかなか入ってこないことを指摘する声も多い。特に、被災者の安否情報や、復興に関する市からの情報が少ないことへの不満が多く出ている。
- 「何かあったときの情報伝達の課題(消防等に連絡できるホットラインがほしい)」「緊急伝達手段がほしい」等、情報の受信だけでなく発信についての対策を求める意見もあった。
◆住環境への不満と、住まい再建の見通しについての意見も多い
- 特に、仮設住宅に居住されている人(229人・22.5%)からは、住環境に対する不満が多く出されている
- *狭い(「お風呂が狭い」「狭く車椅子では生活することができない」「2DKに4人で暮らしている」「物を置く場所もない。6人で暮らすには手狭」等)
- *使い勝手が悪い(「トイレも障害者にとっては使いにくい」「風呂場などに手すりが欲しい」「冬は寒く、夏は暑い」「窓が下までない。風が抜けない」等)
- *プライバシーが守られない(「大人4人が狭い仮設で暮らすのは疲れる。本人に聞かせたくない話があっても出来ない」「部屋を娘と2人で使っているので、テレビがみたい時にみられない」「姉妹で喧嘩しても逃げられない」等)
- 「早く仮設を出たいが、資金や土地などの見通しがたたない」「地元に戻りたいが難しそう。知らない土地に行くことが不安」「高台への移転計画がなかなか決まらない。はやくはっきりさせてほしい」等、住まいの再建の見通しがなかなかたたないことへの不満や不安の声が多い。
- 一方で、「仮設から5年経過したら出ないといけないが土地もない」「現在の仮設住宅にいつまでいられるのか、見通しが立たず不安」「団地を追い出されるか心配 今後、高台に移転しても、住宅費アップしたら不安」「流出した家は建てたばかりだった(4年)ので、新たにローンを組めない」等、行き先の見通しがもてない中で、現在の住居を出ていかなくてはいけないことへの不安も抱えており、被災者の複雑な心境が伺える。
- 「半壊の自宅の補修に補助が欲しい」「地震で被害があったが補助がおりず、夫が修繕した」「半壊と大規模半壊の違いがわからない」等、被害状況によって補償の差が出てくることへの不公平感も出された。
◆福祉施設等を利用している人(していた人)の日常生活への影響
- 「高寿園に入所し、時折帰ってきているので今のところは安心」「松原苑に入所しているので安心」等、入所施設への家族の信頼感や期待値は高い。
- 利用者の側では、「盆、正月の帰省が出来ない」「外泊したがっている、強い訴えが有る」「帰省は家族から受け入れ無理と入所以来全くしていない」等、実家が流されたりして、家庭帰省できないことの影響が出ている。
- また、自宅やホームが流出するなどして、新しい暮らしの場へ移ったり、被災した利用者が新たに入居してくることなどにより、「うるさいときは自分の部屋(個室)に戻っている」「新しいグループホームを建ててほしい ひとり部屋がほしい(今一緒に住んでいる人と合わない)」「本当は家に帰りたい。なぜ、こんなところ(仮設)に住むのか」「全然知らない人の中でペースが乱れる」等、生活の場に様々な混乱も生まれている。
- 「本人は寝ていたり、居間でTVを見てたり 何か刺激がほしい」「しばしば声を荒げる場面が見られるようになってきた」等、日中活動の場がなくなったことの影響が伺える。
★経済面(n=280)
◆前項「Ⅲ.現在の生活状況 1.日常生活について 【震災後】」にあるように、本人や家族も含め、震災により失業したり仕事を失ったり、仕事量の減少や低賃金の不安定就労へ移行したため、経済的な不安を訴える人が多い。
- また、現在就業中の人からも、将来仕事が出来なくなった時や、失業した場合の不安が出ている。
◆調査対象者の54.1%が65歳以上の人たちであるため、年金をもらっていると回答している人が非常に多いが、その中でも経済的な余裕のあるなしの回答は分かれる。
- 比較的余裕があると回答されている人の特徴としては、厚生年金の受給者や、複数の年金を受給している家庭、家族の給与所得や貯蓄のある人、息子夫婦の仕送りなど、家族や親せきの支えのある人である。
- 生活が苦しいと回答している人の特徴は、障害年金や国民年金のみの収入の人が多く、「ぎりぎりの生活」「その日その日暮らし」「食べていくのがやっとの状況」等、経済的な逼迫度はかなり高い。
- 「普通に生活、なんとかやっていけている」と答えた人も少なくはないが、「切り詰めてなんとかやっている」「なんとか食べることができる」「こういう状況なのでやむを得ない」等、ぎりぎりの今の生活を仕方ないこととして受け止めている人も多い。
◆家計を圧迫する要因として、上位に上げられてるものは以下の通りである。
- 医療費・・通院や入院、薬代などの医療費負担がかさむことへの不安
- 福祉サービス利用費・・年金生活での介護保険サービスの利用料への大きな負担感
- 住宅ローンの支払いや壊れた家の補修費用
- 子どもの学費
- 津波で流された車の再購入・・仕事のためには必要
◆将来に対しては、障害年金や国民年金だけで生活を支えていくことへの不安を上げる人が多い。20歳になって障害年金がもらえるかどうか(軽くてもらえないのでは・・)の心配も出ている。
★健康面(n=565)
◆加齢・持病・機能低下による不安を挙げている人が354人(62.8%)にのぼる。
- 主な症状として、腰や膝、股関節、肩、首などの痛みや治療を行っていると答えた人が83人(23.5%)と最も多かった。「左足が思うように動かなくなり要介護度が4に」「転倒による骨折や打撲を繰り返している」「足腰(立てない、歩けない)オムツ使用」「手すりがないと立っていられない」等、日常生活に様々な支障が生じている。
- 不整脈や心筋梗塞、弁膜症、人工心臓等、心臓系の疾病に罹患していると答えた人が35人(9.9%)で、そのうちペースメーカーを利用している人が11人(31.4%)もいる。
- 以下、高血圧等の症状がある人29人、白内障・緑内障や網膜はく離等眼科系の症状がある人25人、糖尿病に罹患している人15人、人工透析を受けている人14人、脳梗塞の治療等の脳機能障害の人12人、胃潰瘍や大腸ポリープに罹患している人12人、てんかん発作がある人11人と続いている。
◆震災後、体調が悪くなったと訴える人が58人(10.3%)と多い。
- 「震災後から視力が落ちた」「ストレスが強く、嘔吐、不眠等の心身症状が出た」「髪の毛が抜けた(脱毛症)」「津波のことをテレビで見ると吐き気がする 」「パニック発作が起こりやすい」「グループホームへの転居や盗難のストレスで身体が痛かったり吐き気がする」等、被災や生活環境の変化に伴うストレスで、様々な身体症状(不定愁訴)が出現している。
- なかでも、「身体が辛い。死にたい思いが続いている」「先のことを考えると不安感が増し、体調が悪くなってしまう」「娘さんの子供を津波で亡くし、張り合いをなくす」「一人の時間が多い。この1年で老いこんだ」等、うつ状態に苦しんでいる人も多く、心のケアが必要とされている。
- 気持ちを紛らわすための飲酒が重なり、アルコールへの依存が強くなった人、精神安定剤や睡眠剤が手放せなくなったと話す人も多い。
- また、仮設住宅等への移転で、震災前に行っていた散歩や、草取り・まき割りなどができなくなり、運動不足と体重増加による体力の低下を嘆く人もいる。
◆病院や薬局が流され、通院や薬の心配をされている人も多い。
- 「車が無いので、通院にいけない」「福祉施設からの帰りに1人で公共交通機関を利用して通院していたが、震災後は公共交通機関がなくなったので父と通院している」「通院援助のお嫁さんが対応しているが、通院などの不安 」など、通院手段も含め不安を訴える人がいる。
- 「特別な薬のため、なくなると大変 」「医療費は収入減とともに大変になる」「薬局がなくなり、カテーテル用の医療器具が手に入らない」「ばら売りしてくれないのでまとめ買いが必要になった」など、服薬・医療器具の入手手段への困難さがうかがわれる。
★移動面(n=593)
◆移動手段は、自家用車や家族の車を利用してると答えた人が最も多く221人(37.3%)である。次いで、病院送迎車や福祉サービスを利用している人55人(9.3%)、バス・タクシーを利用している人43人(7.2%)、自転車を利用している人23人(3.9%)となっている。
◆被災後、公共交通機関の復旧が遅れているため、自動車が移動の中心手段となっている。しかし、「遠くへ出かけるときはてんかんが不安のため、妻と同行する」「今後、運転が高齢のため難しくなってきたときのことが心配」「免許交付が不可となった場合の事を考えると心配」等、障害や高齢による運転への影響や、将来的に運転できなくなった場合の不安を多くの人が抱えている。
◆公共交通に関しては、バスの本数が少ないことやバス停の場所に関する意見が多い。
- 特に通院でバスを利用している人が多く、「通院にかかる時間が15分から50分になった」「バスが午前1本10:30しかない。病院が午後になってしまう」「通院時は、朝6時半に家族に乗せてもらい行くが、帰りはバスの便が悪く夕方になる」「自分で運転できるが、透析の日はしんどくなるので運転できない。自分で行くにはバスがあれば・・・」等、バスの増便を求める声は多い。
- また、「バス停まで歩くのが辛い」「以前は便利なところにバス停があったが、今は離れてしまって歩く距離が長くなった」「バスの時刻表が良く見えないので使えない」等、バス停の数や場所の問題を指摘する声もあった。
◆こうしたなか、通院等でタクシーを利用している人もいるが、「片道5000円を超え」たり、「タクシー券を使用しているが、年間24枚しかない」など、家計への負担が多くなっている。
◆ヘルパー介護タクシーや、“みちのく衛生の会”“TEAM OK(JDFいわて支援センター)”等のボランティア組織を利用している人もいるがその数は限られている。
- 特に、「公共交通機関が整っていない為、土日の余暇の外出も母の送迎となる」「人の目が気になってバスには乗れないので、兄の知り合いに頼んで乗せてもらって通院している」「通院時は、車に乗っていて動くので、押さえる人手も必要」等、障害ゆえの困難さや配慮が必要とされる点も多くあげられている。行政が責任を持ってインフラの整備や支援サービスの拡充を図っていくことが必要である。
★人とのつながり(n=472)
◆近隣・家族、友人・知人、勤務先で震災後、つながりがあると答えた人が、224人(47.5%)であった。一方で、つながりが少なくなったと答えた人は90人(19.1%)であった。
◆仮設住宅に住む人を見てみると、「同じ部落の人たちでコミュニケーションは取れている」「以前住んでいた近隣の人がいるので心細くない」「以前住んでいた行政区の人たちであるため、気心が知れており、コミュニケーションはうまくとれている」「地区が丸ごと移ってきたようなものなので、今までどおりの近所づきあいが行えている・お互い協力体制がとれている」と元々のコミュニティーがまとまっている人たちが目立つ。一方で、「色々な人と話をしている。ここは、おなじ境遇の人たちでもあり、話もできている。」「仮設の近所の人との付き合いは増えつつある」「仮設の人の集まりには毎週行くようにしている」など意識的に交流を図ろうとしている人もいる。
◆つながりが少なくなった人たちは、その理由を環境の変化、体調や障害とあげている。環境の変化では、「漁業の集まりがなくなり、集まって話をする機会が減った」「新しい仕事場 では色々聞けない」など勤務先や「仮設住宅では友人はいない」「仮設の中には友達がいない、人との接触少ない」など居住地をあげている。また、体調や障害では「頭痛があり、あまり外に出ることがなくなった」「補聴器使用のため、大勢の集まりは声が全部聞こえてくるので苦手/少人数ならOK」「近隣の人と同じことはできないので、自分をありのままに受け入れてくれる人が欲しい(弱視の大変さ)」などをあげている。
◆社会資源の活用では、仮設住宅のイベントやサロン、「集会所に集まりがあり、茶話会がある」「お茶っこに参加」「消防団の集会」など既存の集まりや、「困ったときはケアマネさんに電話」「当事者団体に参加してみたい」と答えた人もいる。
★その他(n=372)
◆この項目の回答は、殆ど他の設問項目(「生活面」「経済面」「健康面」「移動面」「人とのつながり」)への回答と重なるため、傾向の分析は行わなかった。
◆ただ、少数意見ではあるが、「もっと困っている人がいるのに言えない」「要望など、そのような話は家族でしないようにしている」「自分としては支援をあまり受けたくない」「人の世話にならない!」といった回答が寄せられていることだけを付け加えておく。
3.生活面や医療面で必要な支援(n=498)
この項目は、聴き取りを行った調査員の判断で記載した部分である。緊急支援必要とされた人に対しては、JDFいわて支援センターで関係機関との調整や移動支援などを行った。また、支援必要と判断した具体的な内容は、通院支援、移動支援、福祉サービスの手続きや情報、就労に関する情報、見守り・声かけなどである。
4.福祉サービスの利用状況
震災前と震災後の福祉サービス利用状況は、利用を始めた人が93人増えている。無回答が103人減っているので、震災による生活状況の変化による使用開始が増えたものと思われる。
5.医療について
震災後に、医療サービスを利用し出した人が669人と79人増えた。反対に利用しなくなった人は8人である。これは、前述の2.今、不安なこと、心配なこと、困っていることの健康面でも具体的に体調不良や体力低下などが出されている。
6.生活や福祉・医療について、市にどんなことをして欲しいですか?(市への要望や意見)(n=1071)
◆市への要望・意見では、復興計画・防災計画173人(16.1%)、福祉面169人(15.8%)、公共交通・道路整備164人(15.3%)、住居問題138人(12.9%)が上位を占める。
◆復興計画・防災計画に関する要望
- 「将来の復興の形が見えない」「計画は分かる。それがいつ実行されるのか?明確にしてほしい 」「市民一人ひとりの意見を聴いて実行して欲しい」等、計画の進捗状況や進め方に対する苦言が少なくなかった。
- そのうえで、「坂や段差の少ない街づくり」「車椅子で街を自由に歩けるように、段差をなくすなどの環境を整えて欲しい」「始めからバリアフリーに配慮した街づくりを。後からでは遅いことがある」「ノーマライゼーションを一部の障害者や高齢者に焦点を当てた街づくり計画にせず、市民全体を見据えての計画にしてほしい」等、バリアフリーやノーマライゼーションに基づく街づくりを期待する声が出ている。
- 防災計画に関しては、防災無線の改善や堤防の復旧整備の他、「一人暮らしの人が何かあったとき連絡できる仕組みがあるといい」等、緊急時の連絡体制・支援体制の整備を望む意見があった。
- また、「重度障害者の避難方法をきちんと考えて欲しい」「災害、緊急時に民生委員の動きがないのではないか、組織として働けるようにして欲しい」等、要援護者の避難に関する体制の確立や、障害のある人の特性に配慮した“福祉避難所”の設置を望む声が多かった。
◆福祉面に関する要望
- 通院や買い物等の同行支援を中心に、移動支援に関するサービスの充実を求める声が最も多かった。
- デイサービスやショートステイ、グループホームや入所施設、日中活動の場等、高齢者や障害者の施設の充実を求める声の他に、特別支援学校に通うための送迎サービスの設置や、共働き世帯の増加に対応した学童保育の拡充等、子どもの施策の充実を求める声もあった。
- また、「障害を持った人から申請しないと先に進まないのはいかがなものか。支援の必要な人をサポートすることが必要」「福祉サービス事業者と役所の連携をしっかり行ってほしい」「福祉・医療についての制度説明をもっと丁寧に(市も大変だろうけど)」「民生委員が一度も来ない」等、行政の課題や要望が出ている。
◆公共交通・道路整備に関する要望
- 鉄道の早期復旧を願う声もあるが、やはりバスの本数の増加や路線網整備への要望が一番多い。とりわけ、「病院にバスの乗り換えなしで行かれるようにして欲しい」「病院などの通院が大変。一日一本しかバスがない。バスもいっぱいで身動き取れない(高齢者は座る場もない)」等、通院でバスを利用する障害者・高齢者の人から利便性の向上を求める声が強い。
- また、仮設住宅がバス路線から外れ「離れ小島になっている」ため、仮設の近くにバス停の設置を求める意見や、「バス停を勝手に変更されると視力障害者はわからない」という切実な訴えもあった。
- 道路整備に関しては、「生活しやすいように道路を広くして欲しい」という要望がある一方、「竹駒あたりの道路は交通量が多いので運転しづらい。回り道なども作って欲しい」「現在歩道がなく、トラックなどの通行が多く安全に自転車が走れない。道路の整備をして欲しい」等、歩行者や自転車の安全対策を求める声が出ている。
- 「外灯がなくなってしまった。道が真っ暗で怖い」「曲がり角に街灯をつけて欲しい」という要望も多い。
- 特に、障害のある人にとっては、歩道の整備や、音響信号の設置は命にもかかわってくるものであり、早急な整備が必要といえる。
◆住居問題に関する要望
- 「仮設住宅を借りているが、いつ頃まで使用できるか知りたい」「仮設を出てからの行き先が不安」の声にあるように、今後の見通しがたたない中で、仮設の入居期限が迫ることに対する不安を多くの人が抱えている。
- 仮設後の住居としては、公営住宅や災害復興公営住宅を希望されている方が多い。
- 住居の再建を考えている人の多くは、高台移転計画も含め、なかなか宅地の見通しがつかないことへの不満が出されている。
- 今住んでいる仮設住居に関しては環境整備を求める声が一番多い。「仮設のバリアフリー化」「障害を持った方も使いやすい、トイレと風呂と玄関を作ってほしい」「陸前高田市にも障害者用仮設を設置して欲しかった」等の声に代表されるように、今の仮設住宅が障害のある人にとっては、とりわけ住みにくい住居となっていることが伺える。
- 行政に対しては、住宅改造のための補助や、高台移転や公営住宅入居にあたって、障害者・高齢独居者の優遇措置を求める声も出ている。
◆医療面に関する要望
- 「近くに病院があると通院しやすい」に代表されるように、高田病院の本格的な再建も含め、市内で総合的・専門的な治療が受けられるよう、早期に医療機関を再建して欲しいというのが大多数の声である。
- 高田病院に関しては、「午前中、混みすぎている」「医者が不足している」等の問題点とともに、「仮設病院を本施設にして欲しい」「総合病院はしっかり残して欲しい」という要望が多く出されている。
- 特に、作業療法士(PT)等による専門的なリハビリが受けられる機能への期待は大きい。
- また、歯科・耳鼻科・小児科・外科・整形外科等の専門医院の設置を求める声も多い。
- その他には、在宅医療(訪問医療・訪問リハビリ)の充実、「松崎、大友、広田地区内への救急車の配備」等が要望としてあがっている。
◆情報・相談に関する要望
- 回答からは、福祉サービスの利用を妨げている3つの原因が見えてくる。一つは「福祉サービスについてよくわからない」にあるように、どのようなサービスがあるのかが十分に周知されていないこと。二つ目は、「ショートステイを利用したいが、どうしたらよいのかわからない」というように、サービスへのアクセス方法・窓口等のわかりづらさ。三つ目は、「手続をわかりやすくして欲しい」にあるように、手続きの煩雑さやそれに要する時間の問題である。
- こうした点を解決するために、行政からの丁寧な説明とタイムリーな情報提供を求める声が多いが、具体的な要望として「わかりやすいパンフレット」の作成や、手続きの簡略化や手続きを代行することができるようにして欲しいなどの意見も出ている。
- しかし、行政窓口の対応に対する評価は「震災後の市の窓口対応(横柄、乱暴)で、心を痛めた(妻が心のケアを受けるほど)、改善をしてほしい」「各種の対応が遅い」「足を運んでの説明がほしい。投げっぱなしの情報にしないでほしい」等、非常に厳しいものがある。
- 「状況把握に来てくれたのは今回が初めて」という人や「困ったときに相談にのってくれたり、聞いてくれるところや人がいない」「見守り、話し相手になる人の訪問が希望」等、まだまだ多くの人たちが孤立している。「市役所の相談室を設置すべき(相談しやすい環境)」等の意見も踏まえ、こうした人たちの要望に適切に対応していくことが大事であろう。
- このほか、行政情報に関しては市外に避難している住民にも、広報等を通じて情報提供を求める声が多く出ている。また、緊急時の情報提供については、「放送が聞えないから光で知らせるものが欲しい」「知的重度の人でも災害が理解できるようなシステムを」等、障害特性に対応した配慮や工夫を求める声がある。
- 尚、「通院の際、障害の有無を都度聞かれるのが嫌(情報の申し送りが必要)」「窓口に行くと、本人の同級生(市職員)などが対応する為、障害を知られるのが辛い」等、個人情報の保護や当事者への配慮を求める声もある。
◆雇用・家計に関する要望
- 雇用に関しては、「最低賃金が安いので若い人が働けない」「働き口を多く生み出して欲しい(若年の層が地域から出て行ってしまうため)」等、街全体の雇用創出への期待とともに、障害者を雇用してくれる企業の増加をもとめる声が多数出ている。特に、特別支援学校に通っている学齢児の家族は、卒業後の進路(働く場所)について大きな不安を抱いている。
- 医療費や介護保険料、福祉サービスの利用料等を家計を圧迫する原因としてあげているが、生活保護の適切な支給や、自宅が残った被災者への補助や減免の実施等、家計を支援する抜本的な対策を求める声も多く出ている。
◆商業施設整備に関する要望
- 遠くまで買い物に行かなくてすむよう、市内に商業施設を設けて欲しい。
- 衣料品店の要望が一番強いが、食料品・靴・手芸品・衣料品・文房具・本屋・コンビニ・郵便局等の声もある。
- 不便な高台や交通量が多い場所ではなく、障害者や高齢者が「買い物しやすい環境」「安心して一人で行ける商業施設」が必要との意見とともに、移動販売車のような買い物サービスや買い物支援、店舗への車椅子の設置を望む声もあった。
◆その他の要望
- 「娯楽施設の充実もして欲しい」「ボーリング場が欲しい」「博物館もほしい」「歌や踊りにいきたい」「プールがなくなった」「公園があれば子供を遊ばせることができる」「自転車に乗れる場所もない」「油絵の教室の場所と無料で教えてくれる先生がほしい」等が出ている。
- 「テレビで見て、何も無くなって寂しい街になった。涙が出てくる」からこそ、震災前のように、みんなが出かけ、集まり、ふれあい、絆を深め合う場の再建を切実に求めている。
Ⅳ.災害発生時の今後の対応
1.緊急避難(移動)の際の支援(複数回答n=1063)
今後の災害時に求められる支援については、避難する経路においては、「車両の支援(一般車両)」350人(32.9%)や「介助等人的支援」243人(22.9%)が上位になる一方で、「必要なし」354人(33.3%)が1位になっている。障害の種別や状況によっては、避難時に支援の必要がないと考えている人も多くいる。このことから、障害者が自力で避難する場合も多いことを念頭に入れ、施設整備による一層の避難しやすさの確保が求められる。
2.避難所・避難場所での配慮など(複数回答n=1672)
避難所・避難場所での配慮は、「医療的な配慮」501人(30.0%)、「生活面の配慮」448人(26.8%)、「移動面の配慮」279人(16.7%)、「集団生活や周囲への配慮」260人(15.5%)の順で必要とされている。これらの配慮を実現するような避難する場所の環境整備(例:スロープ、トイレ、プライバシーの保てるスペースや相談窓口、動線の確保等)が求められる。
3.避難時の要支援度(n=873)
何らかの避難時・避難先の支援や配慮を必要としている人が456人(44.9%)、避難先の配慮のみ必要の人226人(25.9%)、自力での避難が可能である人(不要)は151人(17.3%)である。発災時の速やかな避難情報提供、避難誘導のシステムを構築するためにも、日常的なつながりを活用した避難訓練等が必要になろう。
4.要援護者名簿への登録について
要援護者名簿について、知っている人は少なかった。説明を行う事によって、登録を承諾した人が、701人(69.0%)、不承諾173人(17.0%)であった。登録を承諾した割合が高かったことは、今回の被災時の経験が過酷だったことが反映されていると思われる。障害種別を見ると、身体障害、知的障害、精神障害のある人たちの6割から7割が承諾している。
◆障害種別毎の承諾・不承諾
要援護者名簿登録について
障害種別 | 承諾 | 不承諾 | 未回答 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
人数 | 種別比 | 承諾比 | 人数 | 種別比 | 不承諾比 | 人数 | 種別比 | 未回答比 | ||
身体障害 | 506 | 72.2% | 71.6% | 141 | 81.5% | 19.9% | 60 | 42.3% | 8.5% | 707 |
知的障害 | 119 | 17.0% | 65.0% | 15 | 8.7% | 8.2% | 49 | 34.5% | 26.8% | 183 |
精神障害 | 63 | 9.0% | 61.8% | 17 | 9.8% | 16.6% | 22 | 15.5% | 21.6% | 102 |
身体・知的 | 10 | 1.4% | 55.6% | 0 | 0.0% | 0.0% | 8 | 5.6% | 44.4% | 18 |
知的・精神 | 3 | 0.4% | 50.0% | 0 | 0.0% | 0.0% | 3 | 2.1% | 50.0% | 6 |
合計(A) | 701 | 100.0% | 69.0% | 173 | 100.0% | 17.0% | 142 | 100.0% | 14.0% | 1016 |
5.緊急時の情報開示について
情報開示の承諾は、今回の大地震での経験から来るものと思われる。緊急時には、「個人情報保護よりも命を守ることの方が・・・」と直接的に話された人があった。不承諾と回答した人は身体障害のある人が多く、「家族に相談してみないと」と自分では決められないと答えた人もいた。
◆障害種別毎承諾・不承諾
緊急時の情報開示について
障害種別 | 承諾 | 不承諾 | 未回答 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
人数 | 種別比 | 承諾比 | 人数 | 種別比 | 不承諾比 | 人数 | 種別比 | 未回答比 | ||
身体障害 | 527 | 72.4% | 74.6% | 119 | 83.8% | 16.8% | 61 | 41.8% | 8.6% | 707 |
知的障害 | 121 | 16.6% | 66.1% | 12 | 8.5% | 6.6% | 50 | 34.2% | 27.3% | 183 |
精神障害 | 69 | 9.5% | 67.6% | 10 | 7.0% | 9.8% | 23 | 15.8% | 22.6% | 102 |
身体・知的 | 8 | 1.1% | 44.4% | 1 | 0.7% | 5.6% | 9 | 6.2% | 50.0% | 18 |
知的・精神 | 3 | 0.4% | 50.0% | 0 | 0.0% | 0.0% | 3 | 2.1% | 50.0% | 6 |
合計(A) | 728 | 100.0% | 71.6% | 142 | 100.0% | 14.0% | 146 | 100.0% | 14.4% | 1016 |
Ⅴ. 結果から見えてきたもの
実態調査をとして見えてきた現状については、それぞれの項目ごとに一定の傾向や課題を整理しまとめてきたが、最後に調査全体を通して見えてきた課題のなかで、今後の復興や防災計画の策定にとって特に重要と思われる事項についていくつか問題を提起し、この調査報告のまとめとしたい。
(1)陸前高田市における障害者問題は高齢者問題でもある
- 本調査を行った1016名のうち、65歳以上の高齢障害者は550人であった。高齢化率でいうと実に56%になる。陸前高田市全体の高齢化率34.9%に比べ非常に高い割合である。特に、身体障害の73%が65歳以上であり、全体の94%(517人)を占めている。まさに、陸前高田市における障害者問題は、高齢者の課題と重なった観点から検討されるべきテーマといえる。
- 65歳以上の世帯構成を見てみると、最も多いのが2人世帯で168人(31%)、次いで3人世帯128人(23%)である。約3割を占める2人世帯のうち、7割(116人)は配偶者との同居で高齢者のみの世帯となっており、老老介護や老障介護となる可能性が極めて高い。
- ちなみに65歳以上の単身者世帯は35人(6.4%)で、80歳以上が18人、最高齢は93歳である。
- 上記の実態を見る限り、社会生活や地域生活を送る上での課題は元々あったと思われるが、今回の震災が更なる追い打ちをかけている。調査では、加齢や持病、機能低下による不安を訴えた人が全体の35%(354人)を占めたが、震災による避難や生活環境の変化、ストレス等の複合的な要因による体調の悪化が想定される。
- 仮設住宅入居中の229人のうち、65歳以上の高齢者は114人(49.8%)にも上る。居住環境上の問題に加え、住み慣れた地域から離れての生活、近隣住民との交流の減少等、二重三重の困難を負いながら懸命に今を生きているのが実情であろう。
- そもそも、陸前高田市全体の高齢化率(34.9%)は、岩手県平均の27.2%よりも7.7%も高い。この点からも高齢化対策は、陸前高田市の今後の復興行政のなかで大きな位置を占めるといえるが、その対策にきちんと障害のある人の視点を組み入れることが重要であろう。
- 言い換えると、障害者だけでなく高齢者も包み込んだインクルーシブな街づくり、防災対策の推進が重要であると考える。
(2)今後の防災対策に関して
1)福祉事業者の役割
- 震災発生が平日の日中であったことから、福祉事業者から災害情報を入手したり、避難誘導をうけた人が多いのが今回の特徴といえる(情報入手134人・15%、避難誘導133人・18%)。
- これまであまり重視されていなかった福祉事業者であるが、障害関係者に関する様々な情報の把握や緊急時の機動性等、災害時には他の行政機関にも匹敵する役割を果たす可能性がある。平時より災害発生時における福祉事業者の役割を明確にし、関係機関との協力体制を築いておくことが改めて重要である。
2)障害特性に配慮した情報提供
- 一方で、社会資源の不足や高齢等の理由により、福祉サービスを利用されていない障害者の数も多い。今回の震災でも、災害情報の入手先で一番多かったのが防災行政無線で182人(21%)、次いで近隣住民126人(14%)、家族親戚123人(14%)となっている。また、避難誘導では家族親族163人(22%)、近隣住民76人(10%)と高い割合となっている。
- 特に防災行政無線に関しては、聴覚障害のある人でも55人のうち11人(難聴の方)が防災無線から情報を入手しており、その役割は非常に重要である。しかし調査ではこの無線が「聞こえない」「聞きづらい」という不満が多く出されており、こうした声に丁寧に応え改善していくことが必要といえる。調査のなかでは他に、「光で知らせるものが欲しい(聴覚障害)」、「知的重度の人でも災害が理解できるようなシステムを」等の声も聞かれた。
- 障害のある人たちの不自由さや困難さは、それぞれに違がっており、一人ひとりに応えていくことが、どこまで実現できるかという問題はあるが、それぞれの障害特性に十分配慮した情報提供が求められていることだけは確かである。
3)要援護者世帯の情報把握
- 調査では、必要性があったにもかかわらず避難できなかったケースが12件明らかになった。「自力での歩行が困難だった」「寝たきりの配偶者がいた」「同居者が入院中で一人取り残された」「誰も来てくれなかった」などの回答からは、一人ではどうにもならない事態に追い込まれていた状況が伺える。同様の事態のなかで命を落とされた方々も少なくないはずである。
- こうした悲劇を少しでもなくしていくためには、要援護者世帯に関する情報を平時から行政や近隣住民が共有し、緊急時の救援体制をきめ細やかに準備しておくことである。今回の調査では、「災害時要援護者名簿」への登録や、緊急時の民間団体への情報開示の是非について意向を聞いている。両方とも、7割前後の人が登録・開示を承諾されており非常に高い割合となっている。その意向を今後の防災計画にどう活かしていくかの、行政の役割が問われているといえる。
- なお、要援護者世帯の状況は変化していくものである。自力避難や同居者による避難誘導の可否についても、本人の体調や家庭状況によって常に変わっていく。「一人暮らしの人が何かあった時に連絡できる仕組みがあるといい」という声にもあるように、住民の側からも家庭状況の変化や、緊急時の情報を発信できる仕組み作りも今後の課題であるといえる。
(3)暮らしの再建へむけて
1)障害に配慮した街づくり、移動手段の整備
- 公共交通機関や市街地の流失により、買い物や通院などの移動に関連して、障害のある人の日常生活は大きな不便に見舞われている。震災後の移動手段の中心は車となったが、そもそも運転できない人が多く、運転できる人でも「遠くへ出かけるときはてんかん発作が心配」「高齢になって運転が心配になっている」等の不安を多くの人が訴えている。この点で、公共交通網の再建と整備は急務である。
- しかし、バス路線が再開されても、仮設住宅の多くは高台に建設されているため、障害者や高齢者などが長い坂道を登り降りし、徒歩でバス停に出て外出することは困難なままである。また、「人目が気になってバスには乗れないので知り合いに頼んで乗せてもらっている」にあるように、公共交通では代替できない障害固有の特性やニーズに配慮した移動手段の確保を望む声も大きい。
- 「JDFいわて支援センター」では、本調査と並行して“生活支援”の活動を行ってきた。その利用者は、2012年度で述べ1,978人に上ったが、その多くは病院等への移動支援であった(中には通学支援も含まれている)。この活動は現在も継続中であるが、2013年度にワーキンググループ等で検討を重ねてきた地域生活を送る上での陸前高田市独自の支援体制が実現した時をもって終了予定となっている。この間の第3期障がい福祉計画を基に、当事者参画や関係団体と行政が一体となって取り組んできたことは大変大きく評価できる。震災以降顕在化した非常に強く、大きなこのニーズに継続して対応できるよう、関係機関や当事者団体とともに今後も継続して検討をする事を強く望む。
- 尚、道路の整備や宅地造成などにより交通量が集中するようになった路線では、事故の発生を危惧する声が高まっている。安全な歩道の整備、街灯や音響信号の設置等、障害者や高齢者・子どもに配慮した安全対策を徹底したやさしい街づくりが望まれる。
2)住まいの再建
- 調査時点では、障害のある人229人(23%)が仮設住宅で暮していた。多く人が狭く住みにくい仮設からの転出を希望していたが、代替場所の見通しがたたないことや、退去期限(5年)が迫ることへの不安も合わせて表明していた。
- 住まいの場は、同じ生活圏を共有する近隣住民とのコミュニティーの場でもある。少なくない仮設で、地区単位での入居が行われ、これまでと変わらない近所づきあいが継続されていたが、復興住宅等の建設がすすみ仮設からの転出が進むと、そうした環境にも変化が生まれてくる。
- 転出できる人とできない人との間で格差が大きく広がることがないよう、仮設の住環境の改善も図りつつ、生活相談や集いの開催など、孤立化を防ぐための支援と取り組みが必要である。
(4)丁寧な情報提供と当事者の参画
市民の多くが、行政情報の取得や理解に関して不満や不安を感じている。特に福祉サービスの利用に関しては、サービス内容の周知不足や手続きの煩雑さが利用を妨げている大きな要因と考えられる。こうした点を改善するために、「わかりやすいパンフレット」の作成、手続きの簡略化や代行を認めてほしいといった意見も出されている。しかし、行政の窓口対応に対する市民の評価は、震災後という特別の事情があるにしても、非常に厳しいものがあった。必要な社会資源の整備をすすめることと合わせて、障害者や市民の目線に立った、丁寧で細やかな情報提供と説明が、今後の復興行政の大前提に置かれるべきである。
震災から2年半が経過した2013年10月29日、誰もが住みやすいまちづくりを探る「障害者と防災シンポジウム」が陸前高田市で開催された。終了後採択された「被災地からの提言」では、防災にかかわるあらゆる政策、計画、取り組みに障害者を明確に位置付けるとともに、障害者とその関係者の参画が不可欠であると盛り込まれた。本調査の内容が、そのための貴重な生の声ととして活かされることを期待したい。
【別記】
■12人の具体的な状況
①居住地:矢作町2名
種別:身体障害(内部・肢体)
理由:歩行困難
山間部に位置し、津波被害の無い所である。2008年に発生した「岩手宮城内陸地震」において県内で山体崩壊や土砂崩れが多発し、死亡行方不明者23名、重軽傷者426名となった。この地震を経験していることから、その地震より激しい揺れに見舞われた山間部でも命の危険を感じたと推測される。
現に、2名のうちの1名は前後を山に挟まれた谷地にある。
②居住地:横田町2名
種別:身体障害(内部・視覚)
理由:避難情報入手できていない(2名とも)
地域的には海からだいぶ離れているので、津波の被害の想定地域ではない。このうち1名は川沿いに居住、約500メートル下流まで津波が遡上した。ただし、この時点では想定外だったと思われる。
両者とも避難情報(災害情報)が入手できていないのが気がかり。
③竹駒町:1名
種別:身体障害(肢体)要介護5
理由:移動困難
本人は移動できる状態ではなく、津波の被害を受ける地域でもないのでそのまま自宅にいる事を選んだ。
④気仙町:1名
種別:精神障害
理由:移動困難(老々障介護)
拒食症により体力が無く避難できなかった。同居の母(当時74)は祖母(当時85)を連れて高台へ避難した。自宅は海から100M以内にあり、床下浸水をした。
⑤高田町:2名
種別:身体障害(肢体・体幹)
理由:移動困難(介護者不在及び老々障介護世帯)
自力歩行が出来ないため(1)、介助者が複数の介助が出来ないため(1)。高台にあるが、どちらも数百メートルのところまで津波が来ている。介助者が居ない状況や、老々障介護等の高齢者世帯の複数介護の過程では物理的に避難は難しかったようである。
⑥米崎町:2名
種別:身体障害(聴覚・肢体)
理由:情報不足・移動困難(介護者不在)
どちらも浸水域ではないが、数百メートルのところまで津波が来ている。聴覚の方は避難情報が入手できていなかった。肢体不自由の方は、81歳の独居であったが、震災翌日に近所の方が訪問するまで誰も来てくれなかったとの事であった。
⑦広田町:2名
種別:身体障害(視覚・聴覚)
理由:移動困難(老々介護及び介護者不在)
どちらも半島にお住いの方で、海の近くに住んでいる。聴覚の方は、浸水域の境界にお住いで、老々介護で寝たきりの夫がいたので避難できなかった。視覚の方は少し高台にあったが、同居の家族が入院中であったため本人ひとり家に取り残されてしまった。