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要望書等について

災害時要援護者及び県外避難者の情報共有に関する意見書

2011年(平成23年)6月17日
日本弁護士連合会

第1 意見の趣旨

1 各地方公共団体は,東日本大震災において,災害時要援護者の救助や安否確認等,県外避難者への支援や相互連絡等につき,これらに協力する行政機関・地方公共団体,関係機関や民間協力団体等(以下,総称して「関係機関等」という。)との間で,その保有する災害時要援護者及び県外避難者情報を共有するため,個人の同意を前提とせず情報の外部提供を直ちに行うこと。
 また,これを円滑に促進するため,早急に,個人情報保護条例上の根拠規定及び関係機関共有のためのガイドラインを設け,周知を徹底すること。

2 国は,東日本大震災において,各地方公共団体が,その保有する災害時要援護者及び県外避難者の情報を関係機関等との間で速やかに共有するよう助言すること。

3 各地方公共団体は,個人情報保護条例において,災害時の個人情報の外部提供を促進する根拠規定を定めること。

4 国は,災害救助法又は災害対策基本法に情報の関係機関共有を正当化する根拠規定を新設すること。

5 各地方公共団体は,大規模災害時に住民の安否,避難状況等の確認と被災者に対する支援施策を円滑に行うためのシステムを早急に整備すること。

6 国及び都道府県は,各地方自治体が保有する災害時要援護者情報等が喪失された場合に,速やかな安否確認を行えるよう,各地方自治体の保有する要援護者に関する情報の外部提供を受け,これを都道府県又は国においてバックアップして保存するためのシステムを早急に整備すること。

第2 意見の理由

1 災害時要援護者等に対する支援放置の実態
東日本大震災で甚大な被害を被った被災地においては,行政機能自体の喪失・破壊等により,災害時要援護者(一般的には,高齢者,障がい者,外国人,乳幼児,妊婦等を指す。)について,災害救助法や地域防災計画に基づいて行うべき地方自治体による安否確認が期待できない状況に陥った。
 そもそも,第一に,災害時に備えた要援護者情報の整備が十分でなかったというのが実態であった。第二に,安否確認を要する高齢者,障がい者について,市町村が保有する情報,例えば,介護保険認定・利用情報,医療機関受診情報,障害者手帳交付情報,障害者自立支援給付の認定・利用情報等につき,津波被害によって流失・喪失すると,安否確認の手掛かりさえないという状況であった。第三に,市町村職員等の多数の死亡や役所機能の停止,地域包括支援センター等の機能停止等により,行政が自ら安否確認を行うことが困難となり,災害発生後数週間経過しても,災害時要援護者の安否確認や所在把握さえなされず,避難所の劣悪な環境に耐えられない高齢者,障がい者が,被災した自宅等で何の支援もなく孤立したまま放置されることとなった。

2 地方公共団体による個人情報の誤った取扱の実態
 東日本大震災では,全国から,介護支援専門員協会や介護福祉士会等の高齢者介護の専門職団体や障がい者団体の全国組織,そして高齢者,障がい者の福祉に関わるNPOなどがボランティアとして早々に現地入りし,安否確認と支援を行うために活動を行おうとした。
 ところが,被災地の各県や市町村が,安否確認のために必要な要援護者情報の提供を拒む例が続出したため,安否確認が遅々として進まなくなった。各県及び市町村が拒絶する理由は,要援護者情報は個人情報であって,その外部提供にあたるから,本人同意なくこれを認めないということである。
 こうした対応による深刻な事態は,内閣府設置の障がい者制度改革推進会議(第32回,平成23年5月23日開催分)でも詳細に報告され,また様々な新聞報道がなされている。岩手,宮城,福島3県と33市町村を対象とした調査によれば,障がい者団体から開示要請を受けた3県と8市町村のうち,岩手県と南相馬市以外はこれに応じなかったという(平成23年6月4日読売新聞)。
 震災から3か月が経過しようとしている現在でも,まだなお安否確認が進まないまま多くの要援護者が取り残されており,この事態は,速やかな改善を要する喫緊の課題である。
 他方,東日本大震災では,4万人を超えると見込まれる多数の被災者が県外避難を余儀なくされ,全国全ての都道府県で避難生活を送っている。これら県外避難者は,各被災地の復旧の遅れや福島原発の解決の見通しが立たない中,従来の様々な生活関係,人間関係から切り離され,出身市町村からの情報も十分に得られないまま,不安と孤立のおそれの中で日々を過ごしている。その不安や孤立を防ぐために同郷の避難者同士が連絡を取り合い,また,被災地情報を提供することが肝要である。ところが,避難者同士や支援する関係者において,各避難者の居住場所や出身市町村などの情報開示を求めても,大半の地方公共団体が,個人情報保護を理由に一切の開示を行わないため,県外避難者の孤立は今後一層進行し,新たな復興災害が生じるおそれがある。

3 地方公共団体への個人情報保護法の正しい取扱の周知徹底の必要性
 行政による安否確認が困難な状況の下で,災害時要援護者や県外避難者に適切な支援を行き渡らせるためには,(1) 他の地方公共団体職員の応援を受ける,(2) 福祉専門職団体や福祉事業者,医療機関への委託を行う,(3) 高齢者や障がい者団体等の共助組織,NPO支援組織,ボランティア団体,地域住民に対して安否確認の協力を依頼する,(4) 県外避難者同士が相互連絡をとり,支えあう環境作りを促す,等の方策を積極的に手当すること等が必要である。これら施策は,以下に指摘するように現行法においても十分可能であり,かつ,推奨されているところであり,直ちに国から地方公共団体に対して助言を行うべきである。

(1) 個人情報保護条例は個人情報の共有を許容している
 災害時における要援護者情報の外部提供については,本人の同意を不要とする典型的な場合である。したがって,積極的に外部提供を行わなければならず,個人情報保護を理由に提供しないことは,かえって要援護住民の安全と保護という市町村の責務の懈怠につながりかねない。
 すなわち,各地方公共団体は,個人情報保護条例を策定して,本人同意を前提としない目的外使用や外部提供についての要件を定めているところ,災害時に要援護者の安否確認を目的とする情報提供は,各条例に根拠のある「生命・身体・財産の安全確保のため,緊急かつやむえないとき」又は,「公益上特に必要があり,かつ,本人の権利利益を不当に侵害するおそれがないと認められるとき」に該当し,外部提供が正当化される典型的な場合である。市町村によっては,「住民の利益になることが明らかな場合」には外部提供に本人同意を要しないとの要件が規定されており,それに該当することも明らかである。
 したがって,個別事情を勘案するまでもなく,高齢者や障がい者等要援護者の安否確認のために,要援護者情報を外部提供することは正当である(なお,性質上,災害時要援護者情報の外部提供は一刻の猶予もないから,これを審査会の意見に付すなどの運用は厳に慎むべきである。)。
 なお,東日本大震災において,南相馬市では,安否確認のための職員不足から,地元の福祉団体の協力を得ながら要援護者の安否確認等を行うこととし,身体障害者手帳及び療育手帳を持つ約1000人分の名簿の情報を共有して,福祉事業所等による訪問調査を依頼した。このような適切な判断と対応が求められている。

(2) 災害時における個人情報共有の推奨方針を,改めて周知徹底すること
 内閣府・総務省は,かねてより,個人情報保護に関する誤解と過剰反応を改め,地方公共団体において個人情報を適切に共有するべく,国民生活審議会意見「個人情報保護に関する取りまとめ」及び個人情報保護関係省庁連絡会議決定「個人情報保護施策の今後の推進について」(いずれも平成19年6月29日)等を取りまとめ,災害時,事故時,緊急時,虐待対応等において,関係機関による個人情報共有について,条例の適切な解釈・運用に努めてきた。
 また,内閣府・総務省・厚生労働省による「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」(平成18年3月)では,災害時に要援護者情報の収集・共有につき,本人の個別同意方式には限界があることから,「関係機関共有方式」(保有情報を本人の同意を得ず関係機関等の間で共有する方式)の積極的活用を推奨していた。東日本大震災では,まさにこの方式が徹底されなければならないところ,残念ながら地方公共団体の理解が不十分であることは上記のとおりであり,国は,再度の周知徹底を行うべきである。

(3) 全国避難者情報システムの至急の運用改善
 総務省は,平成23年4月25日より「避難先における情報提供の受付について(全国避難者情報システム)」の運用を開始した。ところが,避難者登録には自主申告方式(いわゆる「手上げ方式」)のみが採用され,関係機関共有方式による個人情報の共有を推奨する従来の国の方針と明らかに逆行する運用となった。
 避難者,ことに県外避難者は,被災地域に住民票登録を残したまま転居する例がほとんどであり,こうした県外避難者を放置すれば支援の網から漏れ,地域社会からも孤立する危険性が極めて高い。地方公共団体が,本人の同意を要せず避難者情報システムへ登録できるよう至急の運用改善を行う必要がある。
 また,このようにして網羅的に登録された避難者情報について,県外避難者同士の相互連絡を促すことは,国・都道府県の責務である。そこで,避難者同士の情報提供につき,個別の積極的な拒否の意向がない限りこれを提供するという方式の運用を直ちに行い,周知徹底するべきである。

(4) 被災者支援システムの整備  各地方自治体が,こうした個人情報の適切な取扱いをしつつ,被災者に対する多様な支援業務を遂行するには,被災者の情報を管理するシステムをあらかじめ整備しておく必要がある。例えば,総務省所管の財団法人地方自治情報センターは,平成23年3月18日より,被災者支援システムをオープンソース化し,全国の地方自治体に提供しているが,同システムの普及率は低い。東日本大震災の被災自治体では,被災者の情報管理と,被災者支援施策(具体的には,義援金の配分,り災証明発行,災害弔慰金等の給付,被災者生活再建支援金の給付等)が連動していないため,支援業務が大幅に遅れる一因となっている。そこで,大規模災害時に住民の安否等の確認と被災者に対する支援施策を円滑に行うためのシステムを早急に整備するべきである。

4 災害時における個人情報の関係機関共有方式の明記
 上記のとおり,国が再三にわたり周知しているにもかかわらず,今回の誤った運用が生じた実情に鑑みれば,上記のような助言・指導の徹底のみならず,災害救助法,災害対策基本法及び各地方公共団体の個人情報保護条例において,災害時の安否確認等に必要な情報の関係機関共有についての明確な根拠規定を創設すべきである。
 まず,各地方公共団体の個人情報保護条例には,外部提供の規定に「災害時の要援護者など住民の安否確認のため必要があるとき」,「市外(県外)に避難した住民に対する救助及び支援のため必要があるとき」という要件を明示し,解釈・運用に誤りが生じないようにすべきである。
 また,災害救助法については,地方自治体が行う救助業務を完遂するために,行政情報を本人同意なく外部提供できる旨の根拠条文(同法28条を参考に,これに類似した規定)を新設すべきである。さらに,災害対策基本法で作成が義務付けられている地方公共団体の地域防災計画(同法第3章)にも被災者の個人情報の取扱いに関する事項を定めるものとし,要援護者及び県外避難者の情報につき関係機関共有方式を明記するよう求めるべきである。

5 個人情報の提供先に対する適切な措置及びガイドラインの策定
 他方,以上の改善事項について,個人情報保護の趣旨に鑑み,要援護者情報がみだりに流出しないための手当にも留意すべきである。すなわち,具体的な情報提供先との関係で,提供できる情報のレベル及び情報の守秘義務についての手当を行うことである。
 提供先が,法律上の守秘義務を負う応援市町村職員や守秘義務が規定されている医療や福祉の専門職や機関,民生委員,児童委員等の場合には相当程度の情報の提供が可能である(平成18年2月28日開催「社会・援護局関係主管課長会議」資料中「1 地域福祉の推進について(4)民生委員・児童委員活動の推進について」等参照)。これに対し,障がい者団体やNPO等の団体の場合,明確な守秘義務の根拠法がないため,具体的な情報提供時に,包括的な守秘義務についての協定などを結ぶ必要があるとともに,提供できる情報の範囲について,例えば,氏名,年齢,性別,住所,要介護度や障がいの種類・程度,家族構成など安否確認に必要な最小限度のものとし,今後の支援のために必要な総合的な情報は,安否確認の過程において本人の同意を得て取得するべきこところとなると思われる。
 これについても国や各地方自治体においてガイドラインを策定する必要がある。

6 要援護者情報喪失への対策(共有システムと根拠法の整備)
 東日本大震災では,被災市町村等が津波等により保有情報を喪失し,大きな影響を及ぼした。そこで,各地方自治体の保有する要援護者情報を災害等により喪失した場合の対応について,要援護者情報(例えば,高齢者については,後期高齢者医療・国民健康保険に関する情報,受診歴,介護保険の要介護認定・サービス利用歴に関する情報など。障がい者については,各種障害者手帳の取得情報,障害者自立支援法上の障害区分認定・サービス支給決定,サービス利用歴に関する情報など)を,当該市町村における情報保管だけでなく,都道府県レベルでも情報の共有化を常時はかることとして,要援護者情報喪失への対策を講じておくことが必要である。そのため,各市町村と都道府県や国との各種情報の共有化についての根拠法文の整備を含めた共有システムの整備を急ぐべきである。
 なお,ここでいう情報共有は,住民のうち要援護者に限り,安否確認に必要な情報に限定して共有化を図るという趣旨であり,市町村の保有する住民情報の全てを都道府県や国で共有することを求めるものではないことに留意されたい。

7 結 語
 本意見書は,喫緊の緊急的対応が求められる安否確認や県外避難者の相互連絡等についての個人情報の共有に限って意見を述べるものである。
 東日本大震災への対応としては,被災した災害時要援護者に対する支援につき民間事業所・医療機関相互における個人情報共有が疎外されている課題,高齢者,障がい者の虐待対応における情報共有の課題などもまた,極めて重要なものとして今後検討されるべきことを付言しておく。

以上


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